学校栄養職員インタビュー
「大人になったときに、学校給食を思い出してほしい」
葉隠勇進 学校栄養職員 前田舞さんインタビュー
葉隠勇進 学校栄養職員 前田舞さん
葉隠勇進に入社して5年目の前田舞さん。現在は管理栄養士資格を活かして、小学校の「学校栄養職員」として活躍しています。学校栄養職員とは、献立作成をはじめとした学校給食の管理と、食育のサポートがおもな仕事です。
学校給食を「食育の生きた教材」として大切に考え、「子どもたちが大人になって食を自分で選択していくようになったときに、毎日食べていた給食を思い出してほしい」と語る前田さん。献立作成には大変なことが多くても、子どもたちが「美味しい!!」と食べてくれることが嬉しくて、やりがいを感じられるそうです。
今回、そんな前田さんを通して学校栄養職員というお仕事を紹介いたします。
「学校栄養職員」の仕事とは
――「学校栄養職員」とは、どういったお仕事なのでしょうか。
献立作成が主な仕事です。献立作成は考えることが多くてとても時間がかかります。私のほうで考えた献立を教育委員会に提出するのですが、その際に栄養価や食品の種類などの基準をきちんと満たしているかどうか、厳しいチェックを受けます。すべてクリアしなければ、実際に給食として提供することはできないんです。
――基準の内容を具体的に教えていただけますか。
小学生は身体が大きくなる時期なので、まずエネルギー量をしっかり摂取できるようにすること。そしてたんぱく質、鉄、カルシウム。この辺の栄養配分がしっかりカバーされていることは重要です。
また、食品群においては、卵や乳製品、緑黄色野菜、その他の野菜、魚、肉など万遍なくクリアしないといけない。例えば、子どもたちには魚よりも肉が人気だったりするので、肉をいっぱい献立として登場させてあげたいけれど、魚も出さなきゃいけない量が決まっている。どこかに偏っても駄目、みたいな感じですね。
――とても大変な献立作成ですが、「頑張ろう!」と思える原動力があるのでしょうか。
学校栄養職員の仕事では「子どもが好き」っていうのが根本にあります。以前から「普段自分が調理しているものをイチから考えてみたい」っていう献立作成への興味がありました。「このメニューは子どもたちが喜ぶだろうな」といったことを想像しながら献立を立てることはやっぱり楽しいです。
葉隠勇進初の学校栄養職員
――葉隠勇進では初めての学校栄養職員なのですね。
学校栄養職員として勤務して2年になりました。その前は、葉隠勇進の学校給食現場で3年間ほど調理員をしていました。調理員は学校の栄養士先生が考えた献立を作るという仕事なので、献立を考える仕事をしたのは学校栄養職員になってからなんです。
――学校栄養職員として働くことになったきっかけは。
実は私、調理員だった頃から、学校の栄養士先生がやっているような栄養管理業務をいずれやりたいと思っていたんです。当時の現場チーフには、「葉隠勇進では学校給食の栄養管理業務を受託していないよ」と聞いていたのですが、そんなところに、突如「葉隠勇進で栄養業務を受託することになったので、やりませんか」という話が飛んできて。そこで、「やります」とお引き受けしました。私に声をかけてくださったのは、管理栄養士資格を持っていて、現場での調理経験も積んでいたので、条件に合ったんだと思います。
――すごいタイミングですね…!学校栄養職員の仕事は、学校の厨房での調理経験も役に立っていると感じますか。
もう本当に役に立っているというか、完全に繋がっています。「食材をこんなにたくさん入れたら調理員さんが大変だ」とか「この料理とこの料理を同日にしたら時間が足りなくなってしまう」とか経験から分かるので、調理員をやっていて良かったなって思います。
学校栄養職員としてのやりがい
――学校給食は提供してすぐに子どもたちの反応が見て取れますよね。
給食を食べたあとに反応が返ってくることは、やっぱり楽しいです。給食時間の見回りのときに、子どもたちが食缶の蓋を開けた瞬間「美味しそう!」って言ってくれたり、給食を食べた瞬間思わず「美味しい!」って言う子どもたちを見かけたりすると本当に嬉しいです。その顔が見たかったよ!!と思いますね。
――学校給食を通して、子どもたちに伝えていきたいことはありますか。
小学生の頃って、自分たちの身体をつくる時期として、すごく大事だと思います。学校給食は「食育の生きた教材」と言われているのですが、子どもたちが成長して、大人になったときに給食で得た知識が活かされて欲しいみたいな思いはあります。
――そういう思いは、身近で成長していく子どもたちを見て抱くようになったのですか。
校庭で跳び回って元気に遊んでいる子どもたちを見ていると、かなりのエネルギーを使っていることが目に見えているので、しっかり栄養を摂ってほしいです。
それに、食生活ってきっと家庭それぞれで個人差があるものだと思うんです。だから毎日給食を食べることで食生活の基礎というか、自分が大きくなって食を選択するようになったときに、学校給食を思い出して、「一汁三菜だったなあ」とか、そういう簡単なことでもいいから思い出して、栄養を摂るという意識に少しずつなってもらえると嬉しいなあと思います。
「食べることの大切さを伝える」食育の取り組みについて
――食育補助も学校栄養職員の仕事の1つですが、どういう取り組みをしていますか。
例年なら「子どもたちがたけのこの皮をむいて、それを給食に使う」という体験ができていたのですが、コロナ期間中は子どもたちが手で触れたものを食材として使うのはやめようということで、代替案が必要でした。
そこで、私がたけのこの皮をむいて、その様子を掲示してみたらどうだろうかと考えました。子どもたちが実物のたけのこを見て触れたら面白いんじゃないかと思ったんです。
掲示すると、子どもたちがたけのこを触ってみて「動物みたい…!」と言っていました。たけのこって内側の皮に茶色い毛のようなものが生えているんです。あと、皮だけでなく、たけのこを縦に切った断面の様子も掲示したんですけど、それを見て「たけのこってこういう風になっているんだ」という反応があったり。そもそもたけのこがどういう形をしている食材なのかを知らない子どもも多かったみたいで、すごい反応がありました。
――食育といえば、「現場力※」にも力を入れていますよね。
※ソシオークグループの「現場力」とは、現場ではたらく社員が自ら課題や改善点を見つけ、知恵と工夫によりチームで改善を重ねていく取り組みです。
はい、特に給食返却の運搬車の片付け方改善には気合いを入れました。
各クラスから返ってくる運搬車の片付け方に困っていたんです。食缶の乗せ方がクラスによって違ったり、お皿が上段、中断、下段と3段バラバラに入っていたり…。給食室の片付けの効率が悪くなるだけでなく、食器を落として怪我をしてしまう危険までありました。片付けまでが給食なので、それも食育指導の一環だと考えて、どうにかしなきゃと思ったんです。
そこで運搬車への食缶などの乗せ方をわかりやすく示したポスターを作成し、職員会議で担任の先生方に協力していただけるようお願いしました。すると、学校長先生にもご理解いただいて、「給食室さんに感謝の気持ちを伝えるためにも、片付けはしっかりやってください」と担任の先生方に伝えてくださいました。その後、各クラスの運搬車がきれいな状態で返却されるようになり、子どもたちの片付けに対する意識が変わりました!
――子どもたちが成長するにつれて、食べることへの意識の変化を感じますか。
1年生のときに全然食べていなかった子が、2年生になってたくさん食べている姿を見たときに、すごく変化したなと思いました。単純に給食に慣れたっていうのもあるかもしれないし、担任の先生のご指導だったり、本人の意志だったり、いろんな理由が考えられると思いますが、1年生のときにこれっぽっちも食べられなかった子がおかわりしている姿を見ると、とても嬉しいです。
コロナ期間中に学校栄養職員として働きはじめて
――コロナ禍で印象的なことはありますか。
給食の時間がこれまでとはガラッと変わってしまいました。前だったら、みんなグループになって向き合ってワイワイ話しながら給食を食べていましたが、今は席を離して、全員前を向いて、黙食。
おかわりは子どもたちが自由によそっていましたが、トングやお玉の使いまわしが禁止になったので、今は担任の先生が手袋をして全部盛り付けます。なので、担任の先生はとても忙しいです。一刻も早く食べないと、子どもたちがおかわりに並びにきちゃうので、私もフォローに入ったりします。人気メニューの日とかは静かな大行列ができています。
――子どもたちとのコミュニケーションに悩む場面もありましたか。
最初は給食の時間に献立の感想を聞いたりして、子どもたちとコミュニケーションを取りたいと思っていたんですが、喋ることができないので、給食の時間に見回りに行くのも少し気まずい感じがありました。色々と考えて、「美味しいと思った人、グーちょうだい」みたいに、食事中に言葉がいらないコミュニケーションを試みたりしました。そうやって子どもたちの反応を見つつ、献立に活かしていきました。
――今では子どもたちとの関係性も築けましたか。
1年生から6年生まで会話を交わします。子どもたちって顔とか名前をすごくよく覚えてくれて。廊下ですれ違ったら「前田先生、今日の給食美味しかったよ!」とか、「今度の給食の〇〇がすごく楽しみ!」とか私の顔を見ると話しかけてくれるんです。献立表を毎月配っているのですが、給食が好きな子どもは隅々までチェックしていて、「来週の水曜日は揚げパンだ!」とか楽しみにしてくれいているみたいです。
子どもたちにたくさん栄養を摂ってもらうための「食べ残しを減らす工夫」
――給食の食べ残しを減らすために、気をつけていることとか、工夫していることとか、力を入れていることとかありますか。
「苦手な食材でも好きな食材と一緒に食べれば美味しい」という子は結構多いんです。
例えば、12月に小松菜づくしの献立を提供したのですが、小松菜サラダであれば子どもたちに人気のツナを一緒に組み合わせてみたり。ビスキュイパンだったら、小松菜をミキサーにかけてみじん切りにするっていうひと手間を加えて、食べやすくするとか。
あとはそうですね。やっぱり普段の残食のリサーチがとても大事だと思います。それがもうすべてと言っても過言ではないです。こんなに残食が出てしまったのはなぜだろう。苦手な味だったのかな。じゃあ、次回はもうちょっとこれの量を減らしてみよう、とか考えますね。
――改善ですね。具体的な献立でいうと。
「ごぼうのとろみ煮」という献立がありました。旬のごぼうをたくさん使ったら色が濃く出て、黒っぽいお汁になってしまったことがあったんです。そしたら、残食が15%も出てしまいました。残食を目の当たりにして、(まず見た目が良くない。それに、ごぼう自体そんなに得意じゃない子もいる中で、塩、しょう油、油のさっぱりした味付けだったかな)と反省して改善に取り組みました。ごぼうの量を再検討したり、子どもたちが食べ慣れているキャベツなど癖のない食材の割合を増やして色合いを良くしたりしました。味付けはやや甘辛寄りの子どもたちが好きそうなものに変更しました。
そうして提供すると、残食率は3%にまで改善しました。嬉しかったですね。やった甲斐があったなと思いました。
学校栄養職員としての「これから」
――念願のお仕事に挑戦してみて、今後新たに考えていることはありますか。
これからも学校栄養職員を続けたいと思っています。学校給食って、学校や地域や、さらに都道府県によって全然特色が違うと思います。私はまだ1校目なので、他の学校でも経験を積んでみたいです。
――学校栄養職員になりたい方に経験者の前田さんからアドバイスはありますか。
とにかく献立作成が1番大事なメインの仕事になると思うので、今までの自分の食生活だったり、調理の経験を、フルに活用してください。私は自分の頭の中の引き出しをすべて開けて献立を作成しているのですが、いろんな料理に触れておくのが大事かと思います。そうじゃないとアイデアがなくなっちゃうので。例えば、自分が毎日ラーメンしか食べていなかったらサラダのレシピなんて作れないですよね。自分が本当にいろんなものを食べたり作ったりするのはとても大事かなと思います。
――プライベートでも作ったり食べたりされているのですか。
基本的に食べることが好きなので、いろいろ食べているほうだと思います。休日は友達と「あのお店行きたいね」とか話して調べたりしますね。それで食べたときに「この料理はどんな味付けなんだろう」と考えながら研究をしたりして。
特に学校栄養職員1年目のときは、「どうしよう。ここにあともう一品、何を持ってこよう。」っていうように、組み合わせにすごく悩みました。だから、ネタをどれだけ自分の中で持っているかは大きいと思います。日々勉強というか、それこそ食生活の積み重ねですね。